イメージ 67
「すいこさま」、「しっこさま」、「せっこーさま」などと呼ばれている青森県津軽地方の水神信仰。
イメージ 59
水虎様は龍宮神の眷属の水神で、岩木山麓各地に小さな祠等で祀られています。
イメージ 58
水難除けの神として地域住民の信仰を集め、旧暦5、6月に子供たちの水難事故がないよう、胡瓜などを水虎様への供え物として、川へ流す風習があります。私も今年御招待頂いたのですが残念ながら都合がつかずに伺うことができませんでした。
イメージ 56
イメージ 57
水虎様は河童もしくは河童の上役とされており、祀られている神像も河童の姿。水虎という水の妖怪の伝承がありますが、水虎様は水虎の名前を取ったのみに過ぎず関連性はまったく無いそう。
イメージ 55
明治初期に西津軽郡旧木造町の実相寺住職(18代目)が、頻繁に川で起こる水難事故をどうにかしたいと考え、祈祷により水難の原因が河童の仕業とされたため、河童に大明神としての神格を与え、男女の河童像を祀ることで祟りを鎮めるようになったのが始まり。住職(下総中山寺にて修業)は憑り祈祷に優れており、高く喧伝されていました。
イメージ 54
この信仰が各地に広がり講中も結成され、民間祈祷師達の影響も加わった結果、水虎様信仰が生まれたと伝えます。
イメージ 53
先にも述べた通り、現在も木造千年の水虎様の祠では、毎年7月に宵宮祭りが行われ、実相寺の住職様が祈祷し、古田川では燈籠流しが行われています。
イメージ 52
と、ここまでが現在に伝わる水虎様に関する大まかな歴史や定義でございます。ちなみに一般的な河童の基礎知識を得たい人はやはりここを参照するのが一番でしょう…『黄桜』!!さすがに詳しく掲載されています(笑)特に渡来説・平家の落人説、中国の河伯と水虎などの項は当記事にも関連深いので一読してみてください。※黄桜のHP変わりました。
イメージ 66
私が水虎様を探し始めたきっかけは、たまたま青森県農林部農村計画課の『水虎様への旅~農業土木文化の時空』という冊子のコピーを入手したことに始まります。
イメージ 51
もちろんすべて読んでみましたが、ここに記すことはその内容を一度白紙に戻した上で、私が勝手に推測(妄想)したものですのでご了承を。
イメージ 65
そもそも河童の仕業とは如何なものか…河童の仕業だとして、なぜに女神型なるものが存在するのか。木造(木作村)以外の広範囲に及んでいるのはなぜなのか。なぜ実相寺なのか。水虎と河童の違いは何なのか。時代背景はどうなのか。とにかく疑問は尽きません。様々なキーワードが頭を駆け巡ります。

イメージ 68

その中で何となく結びつきが強いと感じたものを頭の中で整理し、大雑把な相関図にしてみたのですが…分かりにくいですよね(笑)ってことで、これについて説明していきたいと思います。

イメージ 64

まず、最大の疑問である女神型水虎。
イメージ 63
水虎様というのは河童型の像とされており、女神型という分類は一般的な水神ではないかと思います。『水神竜神 十和田信仰』(小館衷三著)には「みの亀に乗った女形の水天宮」という記述もあり、十和田様である可能性も示唆しています。また、河童型については水虎様と記載しており、河童型と女神型の区別はしていないことがわかります。
イメージ 62
女神型といわれるものを実際に見ますと河童とは程遠く、亀に乗って現れるそのお姿はむしろ妙見菩薩のお姿。
イメージ 60
イメージ 61
妙見菩薩は元々明確に姿が定められていなかったので、古いものは吉祥天のようなお姿です。更に現在では亀に乗って剣を持つ姿が多く、尊星王曼荼羅では竜に乗ります。髪を撫でつけたスタイルも特徴。
イメージ 50
開運厄除けの仏様である妙見菩薩は、農業が盛んな地域おいて主に五穀豊穣の妙見さんとして民間の信仰を集めているのもまた深いところです。
イメージ 49
女神型と呼ばれる水虎様は両手を合わせているものがほとんどですが、例えばこちらの鶴田の闇おかみ神社の女神には水神とあり、右手には剣が握られています。
イメージ 44
こちらは亀ではなく竜に乗った女神型(板柳町牡丹森)。
イメージ 43
田川八幡宮の女神はいかにも玄武に乗っているように見えます。
イメージ 40
イメージ 41
こちらは二本柳の水虎様ですが、1つは両手を合わせる女神像で、もう一つは竜に乗り、片手には剣を持ち、顔には髭を携えています。
イメージ 38
イメージ 39
そして川山神明宮の水神。
イメージ 37
これらは十一面観音を本地とする軍神としての妙見神にも思えます。強引です(笑)
イメージ 36
岩木川を境にして西には河童の形の水虎様、東には亀に乗った女神の水虎様が多いのが特徴とも言われていますが、河童型は岩木川を境に…というより、木造を中心に多いと感じられます。
イメージ 69
イメージ 70
但し例外もあります。こちらは岩木川より東にある板柳町牡丹森の馬頭観音にある水虎様ですが、誰が見ても河童のお姿。
イメージ 35
しかも物語上では夫婦の水虎様を祀ったとありますが、まさに数少ない夫婦河童です。
イメージ 32
イメージ 33
イメージ 34
ちなみに妙見菩薩は水の神の他に馬の神として祀られることもあるそうです。馬頭観音と共に祀られている水虎様がいくつかありますが、これは妙見信仰が陸海交通安全の守護神ともされていることに関連しているといえる気がします。
イメージ 30
下の水虎様は元祖と考えられる日蓮宗法光山実相寺の水虎様です。水虎様という堅い命名も日蓮宗との係りからでしょう。
イメージ 29
座法は輪王座風(馬頭観音に近い)。ちなみにその他の形状ですが、岩座・瑟瑟座が多く、坐像(特にインドのヨガにある合蹠坐や輪王座に近い形)、半跏倚坐(菩薩像のみに見られる座法)、善跏倚坐、立像が中心です。いずれにしましても仏教的な要素が非常に強い格好です。
イメージ 28
余談になりますが、私の愛読書の一つでもある太宰治の「津軽」。こちらの「五 西海岸」の項で、M薬品問屋のMさんが木造署館内の米の供出高は全国一ということについて、次のようなことを言っています。
イメージ 26
「じゃあ、木造の事も書くんだな…(中略)…この辺一帯の田の、水が枯れた時に、僕は隣村へ水をもらいに行って、ついに大成功して、大トラ変じて水虎大明神という事になったのです。」
どうやら『津軽』の中では木造の水田の復興に関連するものとして水虎大明神を扱っているようです。ちなみに『大トラ』には注解があり、『大トラ=大酒飲み。酔っぱらい。』とありました。
イメージ 27
話を戻しまして、妙見菩薩は日蓮宗のお寺に多く祀られています。また、実相寺にて水虎大明神を祀ったのが明治初期、つまり神仏分離の頃だというのも非常に興味深いところです。
イメージ 25
こちらは古田川沿いにありますが、どう見ても妙見菩薩寄りな木造林の水虎様。
イメージ 24
明治の廃仏毀釈により妙見菩薩は天之御中主神と同体とされます。天之御中主神はまた水天(西方の守護)と同体とされます。水天は水の神で竜を支配するとされます。また、水天は元々インド・イランの古いアスラ族の水神の属性を持つヴァルナ。
イメージ 23
つまり…
ヴァルナ神(水の属性)=水天=天之水分神・国之水分神(祈雨・後に子どもの守り神)=(神仏分離にてヴァルナ神(水の属性))=天御中主神=妙見菩薩=日蓮宗=実相寺=水の神・子どもの守り神として水虎大明神。

イメージ 22

というような繋がりが私の頭の中に…考え過ぎですね(笑)鳥居の鬼コの時と同様、素人の勝手な考察なのでご勘弁を。
イメージ 20
私は更に妙見信仰の北斗七星という観点から女神型の分布を地図にてリサーチしましたが、そもそも女神型の数が非常に多いこと、後に神社の境内に遷されたこと等も推測しますと、結果として明確な答えには至りませんでした。ただ、実相寺について調べますと元は弘前の「日蓮宗 妙法山妙覚院 本行寺」の末寺なのです。

イメージ 19

ここで再び妙見信仰と強い繋がり見えてきました。河童への軽い興味がここまで発展するとは思いませんでした(笑)
イメージ 18
更に本行寺の起源を辿りますと深草宝塔寺の住職によるもので、深草宝塔寺には七面宮(七面天女)と妙見社があります。この七面天女(日蓮宗、法華経の守護とされる女神)がまた水虎様をどことなく連想させます。また、同じく元本行寺末寺の感應寺に七面様が祀られているのも面白いところです。
イメージ 17
木造川除にある日蓮宗 七面山 道円寺には七面大天女があり、こちらは安産の守り神として信仰を集めています。堂内には竜神に乗った七面天女の大絵馬があり、昔、芦沼のある夫婦の夢に出てきた七面天女の伝説話に関連しているそう。参詣する際には妊婦はロウソクをたてて折り、帰りには短くなったものを持ち帰り、産気づいたときにこれを灯すと産人の神様が助けてくれると伝えます。
イメージ 16
繁田の水虎様はもはや七面様と言うべきものでした。
イメージ 14
イメージ 15
さて、女神型の水虎様については完全に水波能売命・罔象女神と記しているものがございました。
例えば五所川原市の天満宮にある女神像の水虎様は水波女神。これに類似したタイプの女神像は他にもいくつか存在し、これらは恐らくすべて罔象女神かと思われます。
イメージ 12
こちらは五所川原市石岡の女神型水虎様ですが罔象女大神とあります。
イメージ 10
五所川原市高瀬の十和田神社の像も罔象女神。
イメージ 9
こちらはそもそも神仏混淆の名残を色濃く残す闇おかみ神社(御祭神:淤加美神)に設置。
イメージ 8
イメージ 13
先に述べたように石碑にははっきりと水神と記し、隣には竜の祠もあります。おかみは竜の古語であり、水や雨を司る神として信仰されました。また、水波能売命や淤加美神は灌漑用水の神、井戸の神として信仰され、祈雨、止雨の神得があるものです。
イメージ 6
イメージ 7
こちらは五所川原の高おかみ神社で、所謂女神像型の水虎様がありますが、面白いことに、近くには竜に乗った妙見菩薩を思わせる像や南無妙法蓮華経を刻む石碑があります。
イメージ 3
イメージ 4
イメージ 5
こちらは繁田の赤倉山神社。境内の隅には水虎様の祠、七面様の祠(南無七面龍神)、南無妙法蓮華経を刻む石碑(明治15年)があります。
イメージ 47
イメージ 48
イメージ 2
この地方に水の竜神、水天宮、七面様、十和田様が多いのは昔から岩木川の水害等から田畑を守り、豊作を願ったことに由来していることは素人なりにも気付きます。
イメージ 46
一方で、木造付近の河童型を見ていきますと、女神型と違って、河童のお姿に対し、はたまた水虎様・水虎大明神という言葉自体に強い拘りを感じます。例えば石碑だけでもしっかりと水虎大明神と記します。
イメージ 45
木造の高倉神社の祠には意地でも河童の姿に拘ると言わんばかりに手書きの河童を祀ります(笑)
イメージ 42
このように見てきますと、河童型水虎様の歴史的経緯は先に述べた通りであるにしても、女神型というのは果たして水虎様の分類になるのかと強い疑問を持つところでございます。

イメージ 31

しかしながら広い見解でもって、妙見信仰(民間信仰としての妙見信仰・あるいは北斗七星になぞられる津軽の民間信仰・日蓮宗系)やその御利益、もしくは七面天女等とも関連させるのならば、広義に水虎様の類としてもおかしいことではありません。
そもそも女神型は妙見菩薩の神使である玄武(北の守護神・亀あるいは亀蛇)に乗っているという時点で妙見信仰との係りを否定できないものとなっている気が致します。
イメージ 21
結論。
水虎大明神=河童。水難防止。日蓮宗(仏教)。
水虎大明神の民間信仰=河童型(様々なお姿)。五穀豊穣、祈雨、水運(≒交通安全)。
女神型水虎=水神、七面天女・罔象女神(主として手を合わせていないもの)、祈雨・止雨・水難防止。
イメージ 11
以上、素人がおくる妄想的考察でした(笑)
イメージ 1
ブログ村ランキング参加中←クリック宜しくお願いします♪